小沢健二について考えることで世界について考えているkobeniです。
さて、きょうは「日本の伝統色」の話をします。あくまで「日本の伝統色」の話をしますので、美しい四季に興味がある人、デザインのお仕事をしている人、和菓子を食べるのが大好きな人などに喜んでいただける記事になるはずです。小沢健二のファンでなくても大丈夫、大丈夫だってばブラウザ閉じないで。雪見だいふく食べる?
なぜ突然「日本の伝統色」かというと、前回のブログ記事でも紹介した小沢健二のニューアルバム「So Kakkoii 宇宙」の歌詞カードが、
こんな感じで、「特色と銀の箔押し、サイズそれぞれ微妙に違う」って印刷会社さんどんだけ大変なの、というデザインだったのです。なんとなくこれを見ながら歌詞を読んでいたとき、(この歌詞カード、色が全体的に淡いな…)と気づきました。そういえば小沢健二の「魔法的」ツアーのTシャツ、「ういろうみたい」と言われた人が居たとかいないとか。これはもしかして、あれか?「日本の伝統色」というやつか……?
そう思い始めたら、それぞれ何の色なのか、めちゃくちゃ気になって夜も眠れなくなってしまいました。嘘です。だいたい7時間ぐらいは寝てました。
紙の「色指定」というのは一般的に、DICなどが出している色見本帳を使います。そしてその見本はめっちゃ高いです(デザイナーとか印刷屋さんとか、しか持っていない)。たとえば同じ「オレンジ」でも、webで見る色と紙で見る色は違ってしまいます。なのでwebに掲載されている色と歌詞カードを見比べても、はたして同じ色なのか…?確かじゃないなあと思っていました。
ただ、いろいろ調べているうちに「日本の伝統色って、色の『名前』が渋いな」と思い始めました。あと、基本的に自然界にある色から名前をつけているのですが、非常に淡い色の花や草木についても、わざわざ「この色」と名前をつけることで、この世にバーンと顕現させてしまっているのが面白いと思い始めました。「若芽」と「若菜」の違いなど、なかなか気づくものではありません。このあたりからもはや小沢健二関係なくなってきます。
やっぱり紙は紙同士で、近い色を特定したいなと思い、本を購入することにしました。
この本は、紹介されている色数がとても多かったことと、たとえばデザイナーが配色パターンを考えるといった他の用途ではなく「ガチで伝統色を紹介する」のに特化しているように見えたので、選びました。本自体の美しさにも惹かれるものがありました。
前置きが長くなりましたが、この本を使ってSo kakkoii歌詞カードの色を特定していった結果を発表します!ただし、これでも正確でない可能性はあります。まず私は小沢健二ではありませんし、日本の伝統色には諸説存在しているため、この本以外の説や解釈もあるためです。そこんとこふまえた上でよろしく。
では曲順に、といきたいところですが、自信があるものから紹介したいと思います。
「流動体について」…勿忘草(わすれなぐさ)色
忘れな草の英語名は”Forget-me-not”です。おっと小沢健二ファン、もう泣いてる?まだ一曲目ですが、この曲にこの色はヤバいよね。花言葉は「私を忘れないで」。海外で生まれた花で、日本固有種ではありません。元の名前の和訳がこの色の名前にもなっています。
「流動体について」は、「ぼくらが旅に出る理由」と対になっているような曲です。飛行機が羽田に着くところから始まり、旅に出た頃のこと、あの時の別れは正しかったのかな、などと振り返るような歌詞があります。私を忘れないで、か……
あさぎ…新選組の羽織で有名な色。
「シナモン(都市と家庭)」…洒落柿(しゃれがき)色
柿の色といえば赤味のあるオレンジの印象ですが、それをさらに洗い晒して薄くしたような色、とのこと。近しい色に「洗柿」があるようですが、これは(洗ったように)淡くて薄い柿色のことです。日本では淡くて薄い色のことを「洗」と表現することがある……ハッ!「洗ったような月(夢が夢なら)」ってそういう意味……?
「シナモン」は、USでハロウィンの季節である10月ごろ人気のスパイスになるようです。シナモンの香りのホットアップルサイダーを飲んだりね。日本で10月ごろの味覚の代表といえば、柿か栗でしょう。だからこのカードの色は「柿系統」という解釈でいいんじゃないかと思ってます。
日本人が見た虹の色は、こんな薄いピンクなんです
「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」…瓶覗(かめのぞき)色
この本の中でも「こんな変わった名前の色は、他にないのでは」と紹介されていました。藍染で染めようとした布が、一瞬だけ浸かった瓶の色?とにかくとても淡い藍色、ということになりますでしょうか。エメラルドグリーンみたいで、湖を覗き込むような感じもあり美しい色ですね。
「アルペジオ」は漫画家の岡崎京子さんに捧げられた歌ですが、トンネルのような世界の深淵を常に覗き込もうと試みる芸術家、小沢健二&岡崎京子にふさわしい色名かもな、とか思います。
「高い塔(とstardust)」…竜胆(りんどう)色
このアルバムは秋に出ましたが、アルバムを象徴するような曲だ、と私が勝手に思っている「高い塔」。色は、日本の秋の花の代表格「りんどう」で合っているんじゃないかなあと思います。
竜胆の花は日本が原産。花の形が星型だから、というのもあるのでしょう、「銀河鉄道の夜」にも繰り返し出てきますね。竜胆は群生せずそれぞれ「単独で自生」していて、天気のよい日だけ、太陽に向かって真っすぐに開花するのだそうです。
ここまで読んで、「高い塔」を聴いたことのある方はもう泣いてると思いますが、「高い塔」は、日本列島あたりに、一人ひとり立っている、私たちに対して歌われている曲ですよね。世界の中の日本とか、大勢の中のひとりとか、そういったイメージと、「東京の街に孤独をささげる高い塔(東京タワー)」を重ねている曲だと、私は思ってます。
竜胆の花は、悲しみをイメージさせる色(青)でありながら、高貴な色(紫)でもある。だからか、竜胆の花言葉はすごいですよ。「正義」「誠実」そして
「悲しんでいるあなたを愛する」
です。群生せずバラバラに咲くことから、孤独に耐え凛として見える、という意味の花言葉がついています。
「Stardust」は彗星のかけらのことではと、歌詞を分析していた方がいましたが、竜胆の花はその形から、さながら野に山に散らばった星屑のようです。それは空から降ってきた歌詞のひとつひとつを、受け取った私たち一人ひとりのことかもしれませんね。
ちなみになぜ「竜の肝」と書くかというと、漢方にも使われていたという根っこが「竜の肝のように苦い」からだそうです。だから「霊草」ともされているらしい。一筋縄ではいかない花ですね。
「失敗がいっぱい」…薄紅梅(うすこうばい)色
「フクロウの声が聴こえる」…白菫(しろすみれ)色
「いちごが染まる」…半(はした)色
このあたりはちょっと自信がないです。がんばって近い色を探した結果、いちおうこれかなと思っている感じ。「失敗がいっぱい」は、なんとなく微笑ましい感じの曲なので、ピンク系統が合うなとは思います。日本のピンクは奥が深くて、桃(海外でピーチカラーは実の色ですが、日本の桃色は「桃の花の色」です)、梅、桜がそれぞれ異なる色として把握されています。その中でいうと「梅っぽい色かな」ぐらいの感じです。「薄紅」ってなんとなく、「かわいいひとたち」を連想する感じもありますよね。薄紅のリップ。
フクロウもまた、すごく淡い色なのですが、紫が入っているように見えます。菫の咲く季節は5月。私はなんとなくあの曲は、初夏のイメージなのですが、皆さんはいかがですか?
プラタナスは「神秘的」にも出てくるコネティカット州あたりにもよく生えている木です。「大きな魚が水音立てる」というあたり、「ハックルベリー・フィンの冒険」を思い出しますね。
なぜ「いちごが染まる」が「イチゴ色」じゃないのか。マジわかりません。でも、デザインの世界で「そこに書かれていることをそのまま色にする」は、説明的すぎておそらく禁じ手です。なので、ちょっとずらした色(紫が入っているように見える)なのかもしれません。気のせいかもしれませんが、「彗星」「フクロウ」「神秘的」「高い塔」ぜんぶ紫が入っているように見えるんですよね…。日本で紫は最上級に高貴な色です。小沢健二、高貴な色が好き?
桜がすごく淡い色なのが、さすが、と思いますね
「神秘的」…鴇鼠(ときねず)色
これも割と自信があります。だって変だもん、色名が。私が小沢健二だったら絶対使いたい。しかも、日本の国鳥である「鴇」が入っているし。
グレーが加わって、渋みがある色が日本人は好きなのでしょうか。薄雲鼠とか鳩羽鼠とか、「なんとか鼠」という色名がとてもたくさんあります。すごい数のいろんな色の鼠がこっちに向かってくる様が頭に浮かびます。
鴇って実物は白いじゃん?と思う方も多いと思いますが、この「鴇色」は、羽の内側の色をとっているらしいですよ。飛んでいくトキを下から見たときの色を取った、ということなのでしょうか。That is so センスいい。
この色名は伝統色の中でも、「瓶覗」と同じぐらい変わった、珍しい名前だということは間違いなさそうです。
「薫る(労働と学業)」…若芽色
草の色についても日本人はとても細かく拘っていて、「若芽」「若菜」「若草」「若葉」でぜんぶ色が違います。その中でもこの「若芽」はかなり淡い薄い色です。芽吹いたばかりの葉、のイメージだそう。なんでしたっけ?僕の歌が種だとすると、その種は君たちの元で芽吹き、花を咲かせる。とかなんとか。湾岸ツアーでこの曲を歌う前に言ってましたよね!
「薫」という字自体は、「源氏物語」にも「薫君」という登場人物がいるように、昔から日本で使われていますね。「ドアをノックするのは誰だ?」に、「風薫る春の夜」という歌詞がありますが、元は春の匂いを運んでくる風を「薫風」と呼んでいたんだって。この字は「薫陶」みたいに、「徳のあること(をして人を感化する)」という意味にも使うんだってよ!そこまで考えてるかって?もちろんあり得るよ、小沢健二ならね。
「夏虫色」も素敵ですよね
さて、一曲足らないですね。「彗星」です。
これ、わかんなかったんですよ…。
紫系統の色だということは、わかるんですが。
しいていえば「藤色」系かなあ…
竜胆と同じく、藤も日本の固有種で、この地域にしかない花のようです。なんとなく見た目が、尻尾のある様が、彗星に似てるような、似てないような……?
ということで、いちおう10曲終わりました。憶測ですので、正しいことはわかりません。小沢健二の友達は小沢健二さん本人から聞いてください。あと、伝統色の色見本を持っている方はぜひあらためて色を当ててみてほしいです。
伝統色の中で印象に残ったことはいろいろあるのですが、日本の風景から(adobeイラストレーターのスポイトのように)色を吸い取っていくと、こんな風になるんだなあということです。ゴーギャンの絵とか、モネの絵とかとは、やっぱり配色が違いますよね。手前味噌かもしれませんが、全体的に淡くて、シックで、「日本の四季めっちゃオシャレさんだな」といった感想です。
それから、「鴉(カラス)の羽根の色」を意味する「濡羽色」というものがあるのですが、これは青や紫が少し混ざっている、微妙な色合いの黒のこと。そんな色を存在させることがもうso kakkoii。鴉の羽根は、そういう色として「美しい」と思われていたんだな、というのが新鮮でした。
鴉はその賢さや、全身が黒一色であることから、高貴な神の使いの鳥だと思われていたんだそうですよ。
「ひふみよ」の頃に小沢健二のアートワークにちょこちょこ鴉が出てきましたが、たぶん、鴉は本当はso kakkoii鳥だよ、と言いたかったのかなと思います。
ということで最終的に小沢健二あんまり関係なくなる好奇心の旅を、これからも続けていきたいと思います。どうかな、宇宙、薫ったかな~!
歌詞カードが見たい場合、配信ではなく物理で購入しなきゃダメですよ!
パッケージもえらいことになってます。