kobeniの日記

仕事・育児・目に見えない大切なものなどについて考えています。

「医学部入試における女性差別」弁護団のシンポジウムに行ってきました

「ジェンダー平等こそ私たちの未来-医学部入試差別から考える」(2019.6.22)

 

6月22日に、「医学部差別に対する弁護団(https://fairexam.net/)」の皆さんが開催されたシンポジウムへ行ってきました。皆さんもご存知かと思いますが、2018年に東京医大で女子差別を目的とした得点操作があり、また複数の医大で同様に女子が点数を下げられているという事実が明らかになりました。私はここ10年くらい、女性と労働についていろいろとニュースをウオッチしてきましたが、正直これほどショックが大きかった一件はなかったです。もちろん私は医者になれるほど勉強はできませんでしたが、大学受験はしたことがあります。受験勉強をした一年間は、今思い出してもとても辛かったです。もし自分が試験に落ちて、その裏で「大人が勝手に女子の私の点数を下げていた」なんてことを知ったら、怒りと失望でどうなっていたかわかりません。

しかも、この差別の原因となったのが「医師のワークライフバランス」といった、自分には関係があるが10代の女子学生には何の関係も責任もないことだった、というのも大きな衝撃でした。私は大人として、今を生きている10代の女の子たちには本当に申し訳なさしかありません。その子が医学部を目指していようといまいと、多くの女子たちの心を深く傷つけたのではないかと思っています。

ということで、この件になるべく長く興味関心を持続したく、シンポジウムにも行ってきました。あっという間の2時間で、ものすごく内容が濃かったのですが、いくつか当日のメモからトピックを共有したいと思います。わりかし難しい内容だったので、間違いなどあったらすみません、ご指摘ください。

 

弁護団のこれまでのご活動について

まずはじめに、この弁護団の活動についてのご報告がありました。私も初めて知ったのですが、「クラウドファンディング」を使って弁護団が訴訟費用を集めるのは、日本初だそうです。支援者が400人以上いたため、最初に立てた目標金額については早期に達成することができたそうです。損害賠償請求額が1億円を超えるため、たとえば書類に必要な印紙だけでも40万円(!)ほどになるんだとか。裁判って、お金がかかるんですね…。

 

医学・医療の中における性差別

 

産婦人科医の吉野一枝さんから、医療の現場における差別の現状についてご報告がありました。いろいろなグラフを見せていただいたのですが、医師国家試験合格者のうち女性の割合は、「20年前からほとんど変わっていない」ということに驚きました。(表① 文部科学省平成28年学校基本調査)だいたい20~30%のまま留まっているのです。なぜ男女半々ぐらいになっていないのだろう…と思いました。

 

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ただ医学部の合格率も同様に調べると、男女にそこまで差がないのです。(表②)女子の成績が著しく悪いということではなく、そもそも「女子が医師を目指す数がずっと増えていない」ということのようです。

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そこにはやはり、「女性医師は働きにくい」という現実と、周囲からそれを理由に「やめておけ」と言われてしまい、理系の女子学生が意欲を冷却させられている可能性があるとのことでした。

特に「外科医」は女性が少なく、たとえば育児中だととても働きにくいようです。いつ仕事が終わるのかわからない、帰りにくい雰囲気、時短だと手術を執刀できない(してはいけないのではないかという配慮をしてしまう)緊急手術に対応できない、など。

吉野さん曰く、むかしは外科医に女性用の当直部屋もなく、「女はいらない」とハッキリ言われていたそうです。そういう中で、自分にもやらせてほしいと残った女性医師が、少しずつ道を切り開いてきてはいるのだが、未だ育児と仕事の両立がなかなか困難なのが現状です。

結局、この医大女子差別問題の根底にあるのは、「医師不足と医師の過重労働」であって、出産・育児で一時的に職場を退く(であろう)女性を減らし、付け焼刃的な対策をした、ということに過ぎません。

そもそも差別が「やってはいけないこと」なのは言うまでもありませんが、学生を差別したところで、多くの医師が過労死ラインを越えて働きすぎている現状の、本質的な解決にもなりません。抜本的な改革と改善が必要なのだと思います。

 

そのほか、女性医師の現状と、改善提言などは、吉野さんが理事をされているJAMP(日本女性医療者連合)のHPを見てみてください。

 

JAMP|日本女性医療者連合

 

 

「高度専門職」と「経営管理職」における、女性活躍の大きな後れについて

シカゴ大学の山口一男教授からのお話です。

(山口先生のプロフィール)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E4%B8%80%E7%94%B7

 

女性の活躍推進には「専門職に女性を増やす」ことが有効なのですが、日本ではそれが「一部の専門職」に限られており、うまく行っていない。家庭、学校、職場などに起因がある、というようなお話でした。

 

日本では「高度専門職」・「経営管理職」における女性割合がいちじるしく低い(③)。たとえば大学教員、国会議員、研究者、裁判官。OECD統計の表が配られましたが最下位レベルでした。そして経営者・管理職の女性割合も最下位レベルです。

 

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医師だけでなく、各種の専門職にも「ガラスの天井」がありますよ、というような話ですね。

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上記が山口先生のお話のまとめページです。わかりみが深すぎて悲しいですがご一読ください。

 

 

 

 医学部女性差別入試と憲法

 

明治大学法科大学院の辻村みよ子教授からのご報告です。

 

ちょっと難しいお話だったのですが、「そもそも、この入試差別って、憲法に違反するの?しないの?」ということが焦点かなと思いました。

報道には当時、「東京医大は私立なんだから、何を入試基準にしてもその学校の自由ではないか」というような論調もあったかと思います。

辻村先生は「背景に医師の働き方の問題があるとしても、入試の性差別を正当化することはできない」とおっしゃっていました。

大学入試=最も公正が求められる場であり、この医学部の試験は

「法の下の平等・差別の禁止(14条1項)」に反するのではないか。

「目的違憲」という言葉があって、そもそも「女性医師を減らす目的」が非合理的である。

(※このあたり私の知識が薄くて間違ったことを書いてしまうかもしれないので、このぐらいにとどめておきます…)

「私立だからいいんじゃないの」については、こちらも憲法で自治が認められているが、違憲や違法行為に関しては、文科省が介入することが可能、とのことです。

 

 

会場のみなさんから質問

最後に質疑応答があったのですが、印象に残る質問も多かったので書きますね。

 

Q:なぜ日本だけ、こんなに(女性の機会均等や男女平等が)遅れているのか?

A:高度成長時代に長時間労働+性別分業(ワークライフバランスが家族単位)が浸透したため、が大きいのではないか。 そこで雇用者を解雇しづらい仕組みにしてしまった。自民党の55年体制の保守政治では、政治的にもジェンダーを論点にしてこなかった。転勤の多い雇用環境、家制度の名残。

(いわゆる「日本型雇用制度」というやつの弊害ってことですね)

 

Q:アメリカでは女性管理職を増やすことができた理由は?

A:ファミリーフレンドリーな企業→個人に寄り添って(ダイバーシティ)、

機会やチャンスを平等に(フェア)与えたことで増えた。

(女性「だから」というよりは、すべての人を積極的に登用したり機会を与えて抜擢していくことを推進した結果、女性の管理職も増えた)

 

Q:「区別」と「差別」の違いとは?

差別=「社会的な機会を損失させられること」。たとえば就職、登用、居住…など。

(よく「区別は必要」とか言ってくる人いますが、そのケースでの機会損失に「妥当性とか合理性って本当にあるの?」というのは、よく考えてもらいたいと思いますね。ちなみにレディースランチとかは、「社会的な機会損失」とは言い難いので、特に差別じゃないんではと思いました)

 

Q:医師自身が「(現場での女性差別は)しょうがないと思う」という意見も聞くが…

A:前提として男女問わず、今回のことに怒っている医師は多い。

 

※今回のシンポジウムで、いちばん私が印象に残ったのは、この質問の時に出てきた下記の山口先生の回答です。

 

「医療現場の職場マネジメント」VS「男女平等」 というような、二つの問題が対立した時、どちらを優先すべきか?という議論が国民の間で熟していない。この場合、「男女平等」の方がまず守られるべきで、それのよりどころとして、憲法や法律がある。仮に女性を排除した結果が「職場マネジメントとして合理的な可能性がある」のだとしても、男女平等の方が、他の合理性より優先されるものなのだ、という社会的コンセンサスがない。

「言論の自由」VS「ヘイトスピーチ」なども同じ。

(経済合理性に任せると、憲法違反や法律違反をした方が「合理的(というか儲かる)」結果になりえることはたくさんあると思います。そうなると労働基準法などは何のためにあるんでしょうか?男女平等を守らない=スポーツに例えると、その大学や企業だけが、反則を犯しながらリーグを勝ち抜いている、みたいな状態にならないのでしょうか。というようなことを思いました)

 

 

私たちには「自分たちで社会を変えてきた」という成功体験がない

 

今回の医大差別も、海外から見ると「なぜもっと怒らないのか?暴動が起きてもいいレベルだよ」と言われる方もいるとか。けれどなぜ日本では大きなデモひとつ起きないのか?それは「自分たちがアクションすれば、世の中が変わる」という成功体験がないからでは?というお話がありました。

 

たとえばこのような、女性の入試差別を「許さない」という態度と、結果を残すことも、ひとつの成功体験になるのでは?という提言があった(下記、山口先生のまとめ)ので、この文章もその小さな一助になればなあと思いました。

ざっくりですが、レポートはこんな感じです。

 

 

 

 

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