※90年代に出版された雑誌記事に書かれた、いじめや暴力に関する具体的な記述を含みます。ご注意下さい。
小山田圭吾氏が開会式の作曲担当と公表されてから、ずっとこの問題を追いかけている。本件はいわゆる「キャンセルカルチャー」の代表例として語られることが多いが、事実確認が曖昧なままバッシングが加熱した事実がある。整理して見やすくするためブログにまとめることにした。追加で確認できたことは加え、一部訂正も含む。
最初に本記事の趣旨をまとめると
-
小山田圭吾氏が「いじめ」に関してインタビューで答えたのは
※現在はインターネット上で、上記の2記事を全文読むことができる。
※ロッキング・オン・JAPANについてはkobeniのツイートに遷移、2番目のツイート参照
-
インターネット上に存在する小山田氏の「いじめ」の記述は、実は上記の2記事の一部を切り貼りしたものだった
-
「クイック・ジャパン」に関しては、記事全文は7/20ごろまでインターネット上に存在していなかった
-
その上で、「原典にあたったが、ネット上の情報との食い違いや齟齬を無視して報道を行った」のが毎日新聞。原典記事にはあたらずに報道したのがモーリー・ロバートソン氏
である。
※文章ではなく音声で理解したい方は、記事のいちばん最後「音声で理解したい方へ」をご覧ください。
※時系列の整理とファクトチェックについて、より詳しく知りたい方は、コーネリアスファン有志によるこちらの検証サイトをご覧ください。
目次
- 時系列
- 毎日新聞デジタル版報道の問題点
- モーリー・ロバートソン氏の報道の問題点
- 開会式の作曲担当を辞任させるために、ここまでの炎上と報道は不可避だったのか
- 最後に
- 音声で知りたい方へ
- 【参考・関連記事】
時系列
五輪の音楽担当が発表→Twitterが炎上状態に→毎日新聞報道は、ほぼ24時間以内の出来事として起きている。
2021年7月14日 21時 五輪HPにて開会式の音楽等担当が発表となり、各種ニュースサイトが報じる。個人の複数のアカウントから、いじめに関するツイートが流れる
【例】
2021年7月15日 7:15ごろ 「小山田圭吾」Twitterトレンド入り
2021年7月15日のトレンドワード | トレンドカレンダー
2021年7月15日 7:45 「はるみ」という五輪中止を求めるアカウントがツイート ソースは「孤立無援のブログ」(「小山田圭吾における人間の研究」という記事)
7/15時点で1万ほどRTされる
※現在の「孤立無援のブログ」では、当該記事は上書き修正されているが、7/15時点での記事のキャッシュはこちら。
2021年7月15日 時間帯不明 上記ツイートを毎日新聞記者の個人アカウントがRT
2021年7月15日 19:59 毎日新聞記事「小山田圭吾さん、過去の『いじめ告白』拡散 五輪開会式で楽曲担当」
日本語(現在は有料)
英語
2021年7月15日 21:41 日刊スポーツ「クイック・ジャパン」を入手した記事
開会式作曲の小山田圭吾氏障がい者いじめ告白雑誌を入手 五輪理念に逆行 - 東京オリンピック2020 : 日刊スポーツ
2021年7月16日 11:36 日刊スポーツ「クイック・ジャパン」を入手した記事(より具体的にいじめ描写を抜粋)
みんなでプロレス技かけちゃって/小山田圭吾氏の障がい者いじめ告白 - 東京オリンピック2020 : 日刊スポーツ
2021年7月16日 18:34 小山田氏が自身のホームページ、twitterに謝罪文発表
Cornelius on Twitter: "東京2020オリンピック・パラリンピック大会における楽曲制作への参加につきまして… "
2021年7月16日 19:00ごろ〜 大手新聞社デジタル版が小山田氏のいじめ発言・謝罪文について報道
(朝日18:50・日経 20:03 ほか、概ね16日中に報道している。本記事文末にリンクあり)
2021年7月16日 23:44 モーリー・ロバートソン氏が英文で連続ツイート
Tokyo Olympics opening ceremony music leader under fire for past bullying - The Mainichi https://t.co/qlLJoceRJ8
— モーリー・ロバートソン (@gjmorley) 2021年7月16日
*Since this article is still vague, I am offering some details garnered from reporting in Japanese. Source links to articles follow.
ソースは15日夜〜16日午前に配信された毎日新聞・日刊スポーツの記事としている
(以下、本記事では取り上げないが、辞任までの主な出来事)
2021年7月17日 オリ・パラ組織委員会の武藤敏郎事務総長は会見で小山田氏の留任を説明
組織委が小山田圭吾氏の留任明言 武藤氏「謝罪され、十分理解」 - 東京オリンピック2020 : 日刊スポーツ
2021年7月18日 一般社団法人・全国手をつなぐ育成会連合会が小山田氏に関する一連の報道に対する声明を発表
小山田圭吾氏に関する一連の報道に対する声明 | 全国手をつなぐ育成会連合会全国手をつなぐ育成会連合会
2021年7月19日 加藤勝信内閣官房長官が小山田氏の報道を受け「イジメや虐待はあってはならない行為」「大会組織委員会が適切に対応してほしい」と発言
令和3年7月19日(月)午前 | 令和3年 | 官房長官記者会見 | ニュース | 首相官邸ホームページ
2021年7月19日 フジテレビ系「めざまし8」で小山田氏の問題を報道。橋下徹氏が「もしこの楽曲を世界に発信したら、日本の恥ですよ、本当に」と発言
橋下徹氏『めざまし8』で小山田圭吾を批判 「楽曲発信したら日本の国の恥」と憤慨|ニフティニュース
2021年7月19日 19:10 小山田氏、自身のホームページ、twitterでオリ・パラ開会式作曲担当の辞任を発表
Cornelius on Twitter: "東京2020オリンピック・パラリンピック大会における楽曲制作への参加につきまして… "
毎日新聞デジタル版報道の問題点
毎日新聞は7/15夜、他メディアに先んじて、いち早く原典記事にあたり報じた。記事を書いた記者は本人のTwitterで、
「書きました。最初は書いていいのか迷いました。ですが大きな怒りが巻き起こったことは事実として記すべき事案と思います。この怒りや違和感をどう受け止めますか組織委さん」
とツイートしている。この記事の時点ではまだ、小山田氏は謝罪文を出すに至っておらず、「大きな怒り=炎上している」状況をニュースとして伝える記事、ということになる。
だが、原典記事にあたれるようになった現在からこの記事を振り返ると、元記事と報道内容の間には食い違いがある。
1と3「長年にわたって同級生をいじめていた」「私立小学校から高校で」
この箇所は、「クイック・ジャパン」(以下QJ)原文の下記のような記述と食い違う。
「肉体的にいじめてたっていうのは、小学生ぐらいで、もう中高ぐらいになると、いじめはしないんだけど……どっちかって言うと仲良かったっていう感じで、いじめっていうよりも、僕は沢田(※沢田くん(仮)は、障害者であると本記事内で書かれている)のファンになっちゃってたから」
「(沢田くん(仮)について)中学時代はねぇ、僕、ちょっとクラス離れちゃってて、あんまり……高校でまた、一緒になっちゃって、高校は、出席番号が隣だったから、ずっと席が隣だったのね、それでまたクラスに僕、全然友達いなくてさ(笑)」
―――お互いアウトサイダーなんだ(笑)。
「そう、あらゆる意味で(笑)。二、三人ぐらいしか仲いい奴とかいなくて、席隣りだからさ、結構また、仲良くなっちゃって……仲良くって言ったらアレなんだけど(笑)、俺、ファンだからさ、色々聞いたりするようになったんだけど」
2 「ツイートが根拠としているのは…」
炎上の発端となったツイートが何を引用元としたかの記載。水色下線を見て頂ければわかるが、これはRT数や、また毎日新聞の別の記者がRTをしたことからも、「はるみ」氏のアカウントのツイートを指していると推定できる。
「はるみ」氏のアカウントが引用したのは、原典の雑誌記事ではない。「孤立無援のブログ」の記事だ。7/15時点の「小山田圭吾における人間の研究」を原典と比較してみると、「ファンになっていた」や「引いちゃうっていうか」など、本人がいじめ行為を「していない」と述べている箇所を、QJ原文から意図的に削除していることがわかる。
記載されたすべての行為を、小山田氏がやったかのように見せ、またそれを文中で
「こういうことを、悪びれることもなく、しゃべる、小山田圭吾という人物の、品性とは何か、と思うわけですが、」
等とまとめている。これをそのまま鵜呑みにすれば、「はるみ」氏が「障害のある同級生への壮絶ないじめを武勇伝のように語っている」という感想を抱くのも無理はない。
2を事実に正確に記すなら、「ツイートが根拠としているのは、『ロッキング・オン・JAPAN(以下ROJ)』と『クイック・ジャパン(以下 QJ)』のいじめ描写を引用しながら主観的にまとめた個人のブログ記事」となるのではないだろうか。
1の後に「いじめ自慢」としてトレンド入り、と書かれているが、この「いじめ自慢」という表現を、他の大手新聞社は使用していない(記事文末の「各社初期報道」参照)。語った時の態度やニュアンスについて報じる場合は、謝罪文で小山田氏が使った「反省することなく語った」という文言を使用している。
新聞記事に「いじめ自慢」という文言が掲載されると、小山田氏が「いじめ自慢をした」ということが確定的事実のように見えてしまう。だが「自慢した」という表現は、「はるみ」氏の元ツイートの「武勇伝のように語っている」と同様に、ツイートをした一般人の印象に基づき付け加えられたものである。一般人の印象の集合体が、Twitterのトレンドに上がったとしても、それを新聞社が報じる際には注意が必要ではないか。
4-1.「クイック・ジャパンの記事には『この場を借りて謝ります(笑)』との記述…」
このくだりはQJではなくROJの方に書かれたものだ。ROJ発行からQJ発行までには、一年半の月日が経過しており、内容も異なる。
トレンドの「いじめ自慢」に言及した以上、その裏づけとして、小〜高校までの回想が書かれたQJの内容を「笑いながら語った」と印象づけたかったのはわかる。だが、時に「僕とか引いちゃうっていうか」など、あまりいじめに対して積極的でない記述も含むQJ記事について、別記事であるROJの「この場を借りて謝ります(笑)」で結ぶのは、「孤立無援のブログ」の、悪意ある引用・編集と変わらないのではないか。
4-2. 記者は「ロッキング・オン・ジャパン」の記事を読んでいない可能性がある*1
こちらについては、上記の4-1に関連し、大月英明氏の著作より指摘があった部分を引用する。
「ROJを参照していない可能性
この記事の写真にはQJのコピーが写っている.しかし「小学校から高校で,障害者と見られる同級生 2人をいじめていた」という表現は,高校でのいじめ記述が存在しないQJの記事と矛盾する(高校では沢田君はいじめておらず,村田君は高校にはいない).記者がQJの記事を参照したならば,この部分で事実誤認をしている理由が不可解である.また記事中にある「この場を借りて謝ります(笑)」という発言は,元々はROJでなされたものである. QJにもこの部分の引用はされてはいるが,もしROJの記事を参照していたならば,この部分は「クイック・ジャパンの記事」ではなく「ロッキンオン・ジャパンの記事」と記載されるべきものである.写真にはQJの記事が写っているが, ROJが写っていないことと,「ロッキンオン・ジャパンの記事」を引用したと記されていないことから,記者が記事を執筆した時点ではROJを読んでいないということが強く疑われる.もし記者がROJを読んでいたとしたら,同誌インタビュー ROJ 1にある「僕が直接やるわけじゃない」という記述は無視できないはずである.
—『コーネリアス炎上事件とは何だったのか: メディアリテラシーが試されるとき』大月 英明著
「いじめ自慢」が昼にトレンド入りし、毎日新聞はその日の夜20時にはデジタル版の記事を出している。25年前の記事を入手するのにはそれなりに時間がかかるため、ROJに関しては実物を入手できず、QJに書かれている内容から引用するしかなかったのではないか。
記事を書いた 山下記者は本記事を、小山田氏の40年前のいじめ・また26年前にそれを雑誌インタビューで語ったことにNOと言い、いじめ自体の根絶に結びつけるという目的「ではなく」、ツイートの最後に「この怒りや違和感をどう受け止めますか組織委さん」とあったように、五輪組織委員会の問題点を追及するという趣旨でリリースしている。つまり目的としては「はるみ」氏と同じく、オリンピックの開会式ひいてはオリンピックそのものを、これらの関係者不祥事の発覚・それに対する人々の怒りによるネット炎上の力で止めたかった(あるいは、そのような人々を応援している新聞だとアピールしたかった)と推定できる。
この記事は、はてなブックマーク数(713users)を見ても相当のPVを獲得する結果となった。他の新聞社より一歩早いのだから、「スクープ」的に多くの人々に読まれたのだろう。また本記事は翌日の朝刊にも掲載された。毎日新聞の公称部数は200万部である。
本文の末尾、緑色下線部分には、「15日午後6時現在、回答は寄せられていない」と記載がある。だが記事のリリースは同日の19:59だ。たった2時間しか待っていない。小山田氏サイドでは「炎上している」という事実を把握するので精一杯だった頃だろう。「一応、連絡はした」といった言い訳にしか過ぎないように読める。*2
当いじめに関しては実在の被害者がいる。また新聞社の名を用いて広く報道する際は、被害者だけでなく加害者についても、事実確認を徹底し、慎重な姿勢で臨むべきではないだろうか。繰り返すが「新聞社が報じた」ことによって、信頼できる・裏の取れた事実だと判断する人々がかなり多いと推定されるからだ。
小山田圭吾氏は21年8月現在、インターネット上で「猟奇的犯罪者」と呼ばれるまでになっている。小学校から高校まで「長年に渡り」いじめを繰り返し、またそれについて「笑いながら自慢した」人物。そのようなイメージが、既に多くの人に浸透してしまった。
7/16夜に小山田氏の発表した謝罪文には、
記事の内容につきましては、発売前の原稿確認ができなかったこともあり、事実と異なる内容も多く記載されておりますが」
との記載があるが、一度ついてしまった「猟奇的犯罪者」のようなイメージを、ここからどのように実像まで取り戻せるだろうか。
追記1
2021年秋〜冬にかけて、筆者は毎日新聞宛に「報道の問題点」と「訂正・再報道・検証記事作成の依頼」を文書にて二度送っている。返答も依頼したが、明確な回答は得られていない。
残されているのは毎日新聞の第三者委員会である「開かれた新聞委員会」による検証だ。こちらに期待したい。
追記2 「はるみ」氏のツイートは、21年9月中旬を最後に停止している。
モーリー・ロバートソン氏の報道の問題点
モーリー氏は、本件を大手新聞社に先んじて報じた経緯について、下記のように述べている。
当初からネット上で問題視されていました。大手メディアで最初に報じたのは毎日新聞ですが、分水嶺(れい)となったのは雑誌を入手して、問題発言をリアルに書き起こした日刊スポーツの報道ですね。それを受け、私も英文で投稿を繰り返しました。すると海外メディアの支局長やメディアに情報を送っている(私の)フォロワーが、署名活動のような連鎖反応を起こして一気に拡散しました。その後、テレグラフ(英国)が克明に報じるなど海外メディアにも広まりました。
毎日新聞の方には、具体的ないじめ描写をなぞった文章はないため、「問題発言」=より具体的ないじめ描写については、「日刊スポーツが報じたので自分も報じた」ということのようだ。
日刊スポーツが原典(QJ)を入手して報じた内容はこちら。
原典と照らし合わせてみると、やはり彼が「引いちゃって」見ていただけの「裸にした」という内容を、彼も実行したかのように書いていたり、友人関係を築いたエピソードには触れていないなど、「孤立無援のブログ」と内容があまり変わらない印象がある。とはいえ日刊スポーツは、大手新聞とは異なりゴシップ記事も多いメディアだ。あまり丁寧に考察する価値はないと思う。
「朝鮮人へのいじめ」はあったのか
だが、この記事でどうしても見逃しておけないと思ったのが、
「本人いわく『朝鮮人』という男子へのいじめを悪びれることなく告白している
という記述である。
これはQJでいうと、下記のエピソードに当たる。
『Quick Japan』95年3号 「いじめ紀行 第1回ゲスト 小山田圭吾の巻」 10 - 『Quick Japan』95年3号 「いじめ紀行 第1回ゲスト 小山田圭吾の巻」全文
朴くん(仮)は、クラスでからかわれた「いじめられっ子」として、小山田氏が回想したもう一人のクラスメイトだ。だが、ここの一連の文章に、彼がいじめをした・あるいはいじめを放置した、という描写はない。「手の上げ方がおかしくて、クラスメイトからは最初『変わってる』と認識されてしまったけど、自分は喫茶店に一緒に行ったり、『そんな(厳しい親の)家、出ちゃえよ。うちに泊めてやるからさ』と言ったりする仲だった」というふうに読める。
からかわれるようになってしまった理由について小山田氏は、「これ、実は根深いんだけど」と述べている。朴くん(仮)にとっては普通の挨拶が、彼の人種が違い習慣が違ったために、日本人のクラスメイトに笑われてしまった。そのような、差別・いじめが生まれる構造を「根深い」と述べているのだ。決してポジティブな意味合いではないと思うが、これが「悪びれることなく語っている」ことになるのだろうか。
ここで、和光学園の当時の同級生(小山田氏の一つ下の学年)の方から聞いた話を挟む。
和光小学校〜中学校では、小山田氏が在籍した当時、障害のある子に対して「共同教育」枠を設けていたのと同様に、在日コリアンの子どもたちの受け入れも行っていた。40年前は今のようなヘイトスピーチは表立って存在しなかったが、世の中における在日差別はかなり根強かった。そのため虐められたり、自尊心を傷つけられることがないよう、シェルターのように和光へ入学してきた子も多かった。クラスに平均2名程度(多いと4名程度)はいたと思う。北朝鮮と韓国、両方の出身の子がいたが、その出身の違いにより、子どもや保護者の対立が起き、結果的に差別や孤立が生じる…なども見たことがない。リーダー層や人気・人望ある子たちの中にも、在日コリアンの子は多かった。
もちろん、小山田氏が回想するように、せっかく転校してきたのにそこで開口一番からかわれてしまったら、意味がないと思う方もいるかもしれない。だが小山田氏の回想の中には、朴くん(仮)がクラスで「その後もずっと虐められ続けた」という記述はない。小山田氏だけではないだろうが、彼もそのうちクラスに馴染み、放課後一緒に遊んだりする友人もいた。というのが、当時の小山田氏のクラスにおける嘘のない実態だったのではないだろうか。
※現在の和光学園に不要な批判が飛ばないよう補足しておくと、現在園生の保護者提供の情報として、現在、学園は本件についてきちんと調査を行っているが、かなり昔の事実確認であり、当事者(被害者)の意向と人権、またコロナ禍の中で制限の多い生活をしている現在園児童への配慮を最優先にしつつ、時間がかかってもきちんと対応したい旨、説明を受けているとのこと。
7月16日のモーリー氏連続ツイートの検証
モーリー氏の連続ツイートは、QJとROJの記述との食い違いや、上記のような朝鮮人のクラスメイトとの交流を「いじめ」としてツイートするなど、「本当に原典記事を読んだのだろうか」「どうして、QJで『先輩がやった』と書かれていることまで小山田氏がやったとしてツイートされているのだろうか」といった疑問が残るものだった。
2021年7月16日23:44 からのモーリー氏の連続ツイートに関し、原典と照らし合わせて内容をチェックしたものが下記である。翻訳者の方を含め複数人でチェックを行った。
8月12日に本内容をツイートしたものはこちら。(一部、修正前の文言を含む)上記だと読みにくい場合は、こちらを参照してもらいたい。
モーリー氏の本件に対する見解は、8月16日に出たこの「週刊プレイボーイ」の記事に書かれている。26年前に小山田氏が雑誌でいじめについて「武勇伝的に語った」ことを放置する「大会組織委員会」の責任を追及するために、記事内の具体的ないじめ描写を英文で国際社会に向けてツイートした。とのことなので、果たしたい意図としては「はるみ」氏や、毎日新聞の山下記者と同じである。
私は一昨年、長男と一緒に和光中学の学校説明会に行った。校内を見学し、授業を見、校長や生徒の話を聞き、最近の和光の特徴についてはよく理解していた。和光は私立でもあり、東京の公立校と比較すると特殊な学校である。私の友人(ママ友)にも、保育園が我が家の子ども達と同じで、小学校から子どもを和光へ進学させた方がいる。「うちの子は普通の公立校だと、扱いにくいと判断されてしまいそう」という不安があった、と言っていた。和光には独自の教育方針があると知っているため、私にはその意味がよくわかる。
さらに本件があってから、和光学園の当時の在校生の方数名にもお話を聞いた。それを踏まえるとモーリー氏の連続ツイートは、「文化的・社会的背景なども咀嚼しつつ、事実関係を淡々と並べることに気をつけ」ているようには思えなかったのが、正直なところだ。
繰り返すが、当いじめに関しては実在の被害者がいる。また、多くの「かつてのいじめ被害者」や、マイノリティであるが故にいじめに遭いやすい障害者の方々もいる。それは国内だろうと海外だろうと、同じことだろう。具体的ないじめ・暴力描写の部分を抜粋し克明に伝えるということは、それらの描写を、そういった人たちの目に積極的に晒すということだ。五輪組織委員会の問題点追及という「大義」のためなら、そのような行為も致し方なし、という判断なのだろうか。
また、小山田氏本人に対しても、具体的ないじめの描写を合わせて報じれば、「あの猟奇的ないじめをやった人」という強烈なイメージが残る。そこにもし、誤認があった場合、「犯罪をしていないのに犯罪をした人と世間に認識される」のと大して変わらないのではないだろうか。
よって私は、彼が「やったこと」、彼が「傍観していたこと」、また彼が「やっていないこと」は、明確に区別して報道するべきではないかと思っている。さらにジャーナリストならば、「日刊スポーツ」のようなタブロイド紙をソースにするのではなく、原典記事にあたり、そこで何か違和感や、裏が取れないような記述の食い違いがあれば、ツイートする前に踏みとどまるべきではないだろうか。原典記事は90年代のもので、インターネット上にはその切り貼りしかなかったとしても、国会図書館や大宅壮一文庫へ赴くなど、少し労力をかければコピーを入手できるのだから。
モーリー氏は私や、上記の連続ツイート検証を見てくれた他の方々による「原典にあたって報じたのか」「朝鮮人に対するいじめがあったとするのは問題ではないか」などの質問に対し、「エクストリーム擁護」と呼んでいる(このネットスラングによるレッテル貼りに私はけっこう傷ついた)。英文ツイートの訳には問題がなかった、また原典記事には当たっておらず毎日新聞と日刊スポーツのみソースとしたと述べている。
※補足だが、7月16日 23:44~23:47 に、モーリー氏は英文で小山田氏の問題を4分間に9件連続ツイート。以降、7月20日までに小山田氏関連について合計145件(7/16に10件、7/17に40件、7/18に38件、7/19に25件、7/20に32件)と、かなりの量のツイートを、繰り返し、行っている。
開会式の作曲担当を辞任させるために、ここまでの炎上と報道は不可避だったのか
センセーショナルないじめ・暴力の具体的描写と共に炎上し、また報道されたことにより、小山田圭吾はネット上で「猟奇的犯罪者」と呼ばれるまでになってしまった。今ではもはや「いじめの権化」のような扱いとして、類似の事件が報道される度にその名前を持ち出されている。
またそれが「五輪開会式」と関連していたことにより、世界中に拡散されてしまった。小山田圭吾には世界中にファンがいる。小山田氏のイメージを世界に向けて、後から訂正するのは途方もなく大変な作業になるだろう。もちろん、ROJやQJの関係者、また本人から、謝罪文にあった「事実と異なる内容も多く記載」がどこなのか説明があるのが一番だ。しかし、ここまで多くの人々に最悪なイメージを持たれ、現行する全ての仕事がキャンセルになり、息子など家族のアカウントが荒らされ、和光学園の生徒まで写真を撮られたり画鋲を撒かれたり……そんな日々からまだ1ヶ月程度しか経っていない中、「今すぐ出てきて事実でない部分について釈明会見を」というのは、私はさすがに恐ろしくて許容できない。
原典にあたれば「彼がやったことではない」と証明できる、あるいは「記述に食い違いがあるため、確実に彼がやったとは確定できない」ことまで「彼が加害した」と、伝えないで欲しかった。また毎日新聞の山下記者は、多くのファンよりも先に、「クイック・ジャパン」の記事に当たった人物だ。そこでジャーナリストとして、自分の「いじめ事実の裏取りを急ぎたい」という利害を優先せず、伝えるべき真実を伝えて欲しかった。
最後に
「はるみ」氏や毎日新聞の記者やモーリー氏よりも前に、このいじめについてtwitterで告発した人物たちは、なぜ本件を知っていたのか。
小山田氏のいじめ記事・行為は、「2ちゃんのコピペ」として一部のネットユーザーには有名な話だったからだ。
2ちゃんのコピペは、悪意ある匿名の人物によってROJとQJを混ぜた形に変わり、2ちゃんだけでなくCorneliusファンサイトの掲示板や、Corneliusの新譜リリースを伝える記事のyahoo!コメント等にベタベタと貼られ続けた。「孤立無援のブログ」の内容も、この派生でしかない。2ちゃんコピペを信じ切っていた人たちは、「クイック・ジャパン」の全文を読んだことがない。コピペが事実だと思って発信している(あるいは、あえてコピペの内容以外を積極的に見せていない)。「時系列」の最初の個人のツイートと、上記コピペを見比べてもらいたい。
そして、2ちゃんコピペというネットミームの存在を知らず、彼ら個人の言い分を信じた人々も、最終的には同じ内容を拡散・報道する結果になっている。
(その2.へ続く)
音声で知りたい方へ
マスナリジュンさんの配信番組にゲスト出演させていただき、本件について話をしています。またマスナリさんが、小山田氏の「お詫びと経緯説明」を音読した動画もあります。
アーカイブはこちら
【コーネリアス小山田圭吾】五輪音楽いじめ辞任騒動の真相/キャンセルカルチャーの暴走か - YouTube
【#小山田圭吾】いじめに関するインタビュー記事についてのお詫びと経緯説明 / 音読: マスナリジュン - YouTube
マスナリさんのTwitter
【参考・関連記事】
本記事の元になった検証まとめ
oymdくんの件、確認できたことのまとめです。ツイートなどで事実確認したもの、また配信イベントなどで現在語られたもの、原典で確認できたものなどを中心に記載しています。和光の方は当時の在校生で本人たちの近くにいた方々です
— こべに🎪 Olive Vive! (@kobeni) 2021年8月6日
間違いなどありましたら指摘ください、そちら含めて見てくださればと pic.twitter.com/QRUQloQ8QG
大手新聞社の小山田圭吾氏いじめに関する初報
日経 7/16
小山田さん、いじめを謝罪 五輪作曲担当は解任せず: 日本経済新聞
朝日 7/16
小山田さん、過去のいじめ加害発言を謝罪 開会式で作曲:朝日新聞デジタル
読売 7/17
開会式の音楽担当・小山田圭吾さん、過去のいじめ謝罪…組織委は引き続き起用へ : 東京オリンピック2020速報 : オリンピック・パラリンピック : 読売新聞オンライン
産経 7/16
五輪開会式の楽曲制作 小山田さんいじめ謝罪 - 産経ニュース
東京 7/16
【文章全文】五輪開会式の楽曲担当の小山田圭吾さん、学生時代のいじめを謝罪:東京新聞 TOKYO Web
※クイック・ジャパン「いじめ紀行」の全文はいつweb上に現れたか?
ファンが持っていた・コピーを取り寄せたなどのタイムラグによって、web上に「それまでの流れと違う意味づけで(=悪意的な補足文言などがない状態で)」最初に登場し、読まれ始めたのは7/20前後。
※小山田氏の謝罪文にある
「記事の内容につきましては、発売前の原稿確認ができなかったこともあり、事実と異なる内容も多く記載されておりますが」
は、後日配信イベントなどで、元関係者が語った内容から、ROJのことを指していると推定される。
ROJは当時「責任編集」を謳っており、「原稿をミュージシャンにチェックさせない」という方針だった。QJについては、元関係者が「おそらく原稿チェックはあったと思う」と述べている。
・イラストレーター床山すずりさんの記事
・Corneliusにインタビュー等もしている大久保祐子さんの記事
21.8.29 追記
上記は、ROJのインタビューから遡ること3年前、まだフリッパーズ・ギターとして活動していた頃、ROJのインタビューと同様に、生い立ちから振り返って語る企画が月刊カドカワにて行われ、匿名ユーザーが書き起こしをしたもの。
中には、「クイック・ジャパン」における沢田くん(仮)とみられる「K」も登場する。 少なからず小山田氏が、沢田くん(仮)に対してどのような思いで接し、眼差しを向けていたかは、こちらの記事からも読み取れると思う。
21.9.15追記
「週刊文春」にて、ノンフィクション作家・中原一音氏のインタビューにより、本件についての具体的な詳細が本人から語られた。謝罪文にあった「事実と異なる点」はどこのことか、また彼自身が行ってしまったいじめ行為がどこの部分だったのか?などが明らかにされている。
21.9.16
クイック・ジャパンで「いじめ紀行」の企画・執筆をした村上氏より、経緯説明の文章が発表された。当時の企画意図は、「あえて極端な角度からいじめという重大な問題の本質を伝えることで事態をゆさぶり、何らかの突破口にできないかと考えた」ものだったとある。「現場での小山田さんの語り口は、自慢や武勇伝などとは程遠い」「また原文記事の最終頁に小山田さんの同級生だったSさん(仮名)の年賀状が掲載されていますが、これも当初から『晒して馬鹿にする』という意図は全くなく」とも書かれている。
21.9.17
小山田圭吾本人から、公式に説明文が発表された。上記の文春記事の内容補足、あらためての深い謝罪に加え、記事にあった中の一部のいじめ行為を行っていた当時・それをインタビューで語った25年前にどのような認識だったか?雑誌などで露悪的に振る舞った理由や、それが間違いだったと気づき、その後は音楽とどのように向き合ったか、「デザインあ」の仕事が本人に与えた影響など、本人の言葉で詳しく説明されている(日本語・英語)。
http://www.cornelius-sound.com/index_en.html
東京新聞による書き起こし。
21.11.26
未だ沈黙を貫いているロッキング・オンの当時の編集者、山崎洋一郎氏に対して、当時からの長年の読者であるYAMADAさんがその責任について書いた記事。本人が語らずとも当時の記事などの状況証拠から、なぜ小山田圭吾氏の記事に捏造が含まれたのかがある程度推定できる内容となっている。